Sakuraという名前の島
- 2016/05/31
- 19:29
今日の話題は、2016年4月20日付けのLe Mondeル・モンド紙の記事です。もう一ヶ月以上前のことです。
常連の記者ではなく、「東京在住の社会学研究者」だというCécile Asanuma-Briceセスィル・アサヌマ・ブリス夫人の署名です。ハイフンの入ったこういう綴りの名前の場合、「Asanuma」は、普通は、夫君の苗字です。
記事は熊本・大分地震のことを報告していて、内容に重大な誤りはありません。
ただ、日本人が読めば「外国人がやりそうな微笑ましい間違い」で済むけれども、事情を知らないフランス人読者が鵜呑みにしてしまうと弊害が起こりそうな記載が二つあります。
「県」の訳語
日本の行政単位の「県」に対応する仏訳語は、二つあります。一つはpréfecture (プレフェクテュール)、もう一つはdépartement (デパルトマン)です。
行政機構というものは、国ごとに異なり、時代によっても変わりますから、ぴったりの訳語というものは存在しません。どちらも「ほぼ県に相当する」ので、許容範囲内の訳語です。
ところが、Asanuma-Briceアサヌマ・ブリス夫人は、熊本県のことを、同じ記事の中で一回は「département」と、あとの二回は「préfecture」と呼んでいます。これは、いけません。知らない人に「日本にはpréfectureとdépartementと両方あるのだろう」と思わせてしまいます。
「桜島」の翻訳
フランス語の原文に「l’île de Sakura」(= サクラという名前の島)という表現があって、首を傾げました。
《佐倉島とか、咲良ヶ島とかいう名前の島って、どっかにあったかなあ?》
前後を読み直して、夫人の無知と誤解に気付きました。鹿児島湾の火山の「桜島」を「島の名前だと勘違いして」仏訳したのです。「霧島」を「キリという名前の島」と訳すような間違いです。
それだけではなく、少し先で「サクラという名前の島の住民」のことを「島民」と呼んでいます。桜島の噴火のせいで「島民を全員避難させるかもしれない」とあるのを読んだら、F爺みたいな慌て者は、
「えっ、九州の住民全員を避難させなきゃならないほどの途轍もない噴火なの?!」
と思ってしまいます。
どうやらAsanuma-Briceアサヌマ・ブリス夫人は、桜島が半島であることを全くご存じないのです。九州の地図を見ていないのでしょうか。それとも・・・地図の読み方を知らないのでしょうか(笑)。
取り立てて重要な問題ではないので逡巡しましたが、やはり指摘してやるほうが親切だと判断して、Le Monde紙の「読者の声」係に一筆することにしました。送信した原文は、次の通りです。
*****
Voici un petit mot pour Mme Cécile Asanuma-Brice qui a écrit l’article intitulé « Le Japon danse sur un volcan atomique » dans votre journal daté le mercredi 20 avril 2016.
« L’île de Sakura » n’existe pas au Japon.
Le volcan du nom de Sakurajima (qu’on pourrait traduire textuellement par « l’île de Sakura ») était effectivement une île jusqu’en janvier 1914. L’éruption volcanique qui a débuté le 12 janvier 1914 et a duré un mois a fini par relier la petite île volcanique à la grande île de Kyûshû.
L’expression « la population insulaire » est malheureuse puisque les habitants de toutes les îles japonaises sont des insulaires.
*****
非逐語訳は、こうなります。
*****
2016年4月20日付けの貴紙に「Le Japon danse sur un volcan atomique (*)」という記事をお書きになったCécile Asanuma-Brice様に次のことをお伝えください。
「サクラ」という名前の島は、日本には存在しません。
桜島(さくらじま)という名前の火山があります。文字通りに訳せば「サクラという名前の島」となりますが、誤訳です。この火山は、1914年までは、確かに「島」でもありました。1914年1月12日に始まって一月(ひとつき)ほども続いた大噴火で、旧・火山島は九州と地続きになりました。「半島」になったのです。
日本列島の住民全員が「島民」です。桜島半島の住民を差す表現としては不適切です。
*****
(*) 気の利いた表題です。
逐語訳するとこうなりますが、全然意味を成しません。
〈日本は、原子力火山の上で踊っている〉
いくらかマシな初歩的な非逐語訳は、こうです。
〈日本は、原発という火山の上で踊っている〉
もう何段階も努力しましょう。
〈日本は、地震・津波・火山災害国であるという地理条件を顧(かえり)みずに原子力発電にしがみついている馬鹿な国だ〉
逐語訳というものの馬鹿さ加減がお分かりになったでしょうか。
常連の記者ではなく、「東京在住の社会学研究者」だというCécile Asanuma-Briceセスィル・アサヌマ・ブリス夫人の署名です。ハイフンの入ったこういう綴りの名前の場合、「Asanuma」は、普通は、夫君の苗字です。
記事は熊本・大分地震のことを報告していて、内容に重大な誤りはありません。
ただ、日本人が読めば「外国人がやりそうな微笑ましい間違い」で済むけれども、事情を知らないフランス人読者が鵜呑みにしてしまうと弊害が起こりそうな記載が二つあります。
「県」の訳語
日本の行政単位の「県」に対応する仏訳語は、二つあります。一つはpréfecture (プレフェクテュール)、もう一つはdépartement (デパルトマン)です。
行政機構というものは、国ごとに異なり、時代によっても変わりますから、ぴったりの訳語というものは存在しません。どちらも「ほぼ県に相当する」ので、許容範囲内の訳語です。
ところが、Asanuma-Briceアサヌマ・ブリス夫人は、熊本県のことを、同じ記事の中で一回は「département」と、あとの二回は「préfecture」と呼んでいます。これは、いけません。知らない人に「日本にはpréfectureとdépartementと両方あるのだろう」と思わせてしまいます。
「桜島」の翻訳
フランス語の原文に「l’île de Sakura」(= サクラという名前の島)という表現があって、首を傾げました。
《佐倉島とか、咲良ヶ島とかいう名前の島って、どっかにあったかなあ?》
前後を読み直して、夫人の無知と誤解に気付きました。鹿児島湾の火山の「桜島」を「島の名前だと勘違いして」仏訳したのです。「霧島」を「キリという名前の島」と訳すような間違いです。
それだけではなく、少し先で「サクラという名前の島の住民」のことを「島民」と呼んでいます。桜島の噴火のせいで「島民を全員避難させるかもしれない」とあるのを読んだら、F爺みたいな慌て者は、
「えっ、九州の住民全員を避難させなきゃならないほどの途轍もない噴火なの?!」
と思ってしまいます。
どうやらAsanuma-Briceアサヌマ・ブリス夫人は、桜島が半島であることを全くご存じないのです。九州の地図を見ていないのでしょうか。それとも・・・地図の読み方を知らないのでしょうか(笑)。
取り立てて重要な問題ではないので逡巡しましたが、やはり指摘してやるほうが親切だと判断して、Le Monde紙の「読者の声」係に一筆することにしました。送信した原文は、次の通りです。
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Voici un petit mot pour Mme Cécile Asanuma-Brice qui a écrit l’article intitulé « Le Japon danse sur un volcan atomique » dans votre journal daté le mercredi 20 avril 2016.
« L’île de Sakura » n’existe pas au Japon.
Le volcan du nom de Sakurajima (qu’on pourrait traduire textuellement par « l’île de Sakura ») était effectivement une île jusqu’en janvier 1914. L’éruption volcanique qui a débuté le 12 janvier 1914 et a duré un mois a fini par relier la petite île volcanique à la grande île de Kyûshû.
L’expression « la population insulaire » est malheureuse puisque les habitants de toutes les îles japonaises sont des insulaires.
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非逐語訳は、こうなります。
*****
2016年4月20日付けの貴紙に「Le Japon danse sur un volcan atomique (*)」という記事をお書きになったCécile Asanuma-Brice様に次のことをお伝えください。
「サクラ」という名前の島は、日本には存在しません。
桜島(さくらじま)という名前の火山があります。文字通りに訳せば「サクラという名前の島」となりますが、誤訳です。この火山は、1914年までは、確かに「島」でもありました。1914年1月12日に始まって一月(ひとつき)ほども続いた大噴火で、旧・火山島は九州と地続きになりました。「半島」になったのです。
日本列島の住民全員が「島民」です。桜島半島の住民を差す表現としては不適切です。
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(*) 気の利いた表題です。
逐語訳するとこうなりますが、全然意味を成しません。
〈日本は、原子力火山の上で踊っている〉
いくらかマシな初歩的な非逐語訳は、こうです。
〈日本は、原発という火山の上で踊っている〉
もう何段階も努力しましょう。
〈日本は、地震・津波・火山災害国であるという地理条件を顧(かえり)みずに原子力発電にしがみついている馬鹿な国だ〉
逐語訳というものの馬鹿さ加減がお分かりになったでしょうか。