宍喰の「民宿ぬしま」
- 2018/11/30
- 20:43
2018年、真夏の○月○日。朝、日和佐の海辺の宿をゆっくり出て、薬王寺までの坂道を上り、そこから宍喰の宿まで山道の無い34.4kmの行程を歩くと決めた日です。気温は、9時前に30℃を超えていました。途中の日和佐トンネルの中が涼しくて助かりました。
牟岐駅前
お昼近く、JR牟岐(むぎ)駅の附近を通り過ぎます。左側に「あずま」という屋号の宿があります。
《YHさんがこの宿の話をしてたな。素泊まり専用だと言ってた。もう一軒の「民宿杉本」は、多分食事を付けてくれるんだろう。牟岐には、コンビニはあるけどスーパーは無いはずだから不便だ・・・》
と、2013年版の古い遍路地図しか持っていないF爺は、この日まで思い込んでいました。
ところが・・・駅前のバス停の傍(そば)で、いかにもすぐ近くで食料品を大量に買い込んだばかりという様子の歩行者とすれ違いました。中年の女の二人連れです。
《あ、これは・・・近くに、古い地図には載っていないスーパー・マーケット(*)がありそうだな。今度来る時までに、牟岐の遍路道沿いの食料品店を調べて書き足しておこう》
(*) 帰仏後にウェブ検索してみると、牟岐駅のすぐ近くに三軒もスーパー・マーケットが出来ているようです。2017年か、もしかするともっと前に、開店していたのかもしれません。探そうと思っていない物は、すぐ傍(そば)を通っても、なかなか目に入らないものなのです。
遍路小屋
牟岐駅前を過ぎて、300mほど進んだ所の遍路休憩所で一休みします。2016年にNMさんと一緒に歩いて来てこの遍路小屋で遭遇した女のことを思い出しました。何度も遍路道を歩くと、思い出が重層的に溜まって行きます。
《早目の弁当にしようかな》
と一瞬だけ思ったのですが、やめました。あの時の「食欲をそそらないバナナ」の動画像記憶が出現してしまい、到底ここで弁当を広げる気になれなかったのです。
もう少し先まで行った所で道路の左側に日陰で坐れる場所があったので、そこで弁当にしました。
海部
海部(かいふ)を通ったのは、午後3時を少し廻った頃でした。海部駅前の信号のある道を渡った直後、町はずれになる当たりで、2016年に「民宿海部」に泊まった時のことと2017年に「生本旅館」に泊まった時のことが同時に動画像記憶で出て来て、面喰(めんくら)いました。
二本の映画を並行して見ているような感じ・・・ではないのです。両方で自分が主役の一人ですから、強烈な、不思議な臨場感がありました。
《今年は、足に肉刺(まめ)が出来ていないから速く歩けて、こんな時間に海部に来ている。どっちも良い宿だったから、泊まらないで通り過ぎるのは未練があるなあ・・・》
そう思いながら足を進めます。那佐湾が見えてきた辺りで、二重の動画像記憶は、ふっと消えました。
宍喰
午後5時近く、宍喰が見えて来ました。
〈「道の駅宍喰温泉」の角(かど)で国道を右に逸(そ)れて街並みに入る〉
つもりでいたのですが、曲がるべき場所を見落としたようで、気が付くと国道55号線をかなり先へ進んでしまっていました。遍路地図を引っ張り出します。
《ええっと・・・あ、この辺りまで来てしまっている。このまま宍喰川に架かるあの大きな橋を渡ってから右へ下りて行ったほうが早いな》
その後は、さらに道を間違えてしまうことは無く、「民宿ぬしま」が見つかりました。
「民宿ぬしま」
入り口が大きく開(あ)いています。玄関に入ると、ご主人らしい人が椅子に腰掛けて新聞を読んでいました。
「こんにちは。電話で予約したFです」
ご主人は、にこやかに
「ああ」
とだけ言って、立ち上がりました。奥の方にいる女将さんを呼びに行ったようです。
愛想の良い女将さんがすぐ出て来ました。ご夫婦ともかなりの年配のようですが、トイレの場所、二階の寝室への案内など、てきぱきと事を運びます。
廊下を赤い蟹が這っているのが目に付きました。
「おや、蟹ですね」
「海辺ですからね。勝手に入って来るんです」
「蟹は、蚊と違って、煩わしいことはありませんね」
なぜか、風呂場の場所の説明がありません。
「お風呂はどこでしょうか」
「ご案内しますよ」
この時、事情を知らないF爺は、
〈風呂の準備が出来たら声を掛ける。その時に案内する〉
という意味だと思ってしまいました。
広い寝室に落ち着き、蒲団(ふとん)の準備を済ませて、ちょっと横になります。壁に貼ってあるたくさんの写真を見ると、高校生の団体が合宿などによく利用する宿のようです。
すうっと眠り込みそうになって慌てました。時計を見ると、到着してから20分も経っています。
《風呂の準備に20分も掛かるはずは無い。さっきは、何か聞き違えたのかな》
階下に下りて見ます。そこで判明したのですが・・・この宿の風呂場は、通りを隔てた建物にあるのです。
「ご案内しますよ」
は、
〈風呂のある建物まで道案内をする〉
という意味だったのです。
浴衣を貸してもらい、タオルを持って、女将さんの後に蹤(つ)いて行きます。
「今日のお客さんはお一人だけですから、左奥の風呂場に行ってください」
建物に入ると、広い脱衣場がありました。右側の大浴場の戸が開いています。湯水の匂いはしません。ちょっと覘(のぞ)いてみると、15人ぐらいも同時に入れそうな広さでした。
《左の奥って、こっちのことかな・・・》
それらしい方向に進んでみると、ああ、あった、あった。一人用の広さの風呂場です。今日一日の汗を流して好い気分になりました。
夕食
夕食は、見た目も分量も栄養価も味も、とても良心的なものでした。
大蒜(にんにく)をたっぷり載せた鰹(かつお)の叩き
鯖(さば)の塩焼き
海老(えび)の天麩羅(てんぷら)
鶏の唐揚げ
皿三枚に分けた野菜と
ご飯とお吸い物に漬物
《これで二食付5500円は、安い!》
手持ちの醤油を使って、美味しく戴きました。甘ったるい味付けの物は一品も無く、国際的に正常な味覚(*)に適(かな)うものばかりで、大満足です。ビールも二本。
(*) 当ブログに初めてのご訪問で「国際的に正常な味覚」が何のことか見当の付かない方は、ブログ記事「味覚障碍?」に目をお通しください。
就寝、8時30分。明日の朝食は6時にお願いしました。
牟岐駅前
お昼近く、JR牟岐(むぎ)駅の附近を通り過ぎます。左側に「あずま」という屋号の宿があります。
《YHさんがこの宿の話をしてたな。素泊まり専用だと言ってた。もう一軒の「民宿杉本」は、多分食事を付けてくれるんだろう。牟岐には、コンビニはあるけどスーパーは無いはずだから不便だ・・・》
と、2013年版の古い遍路地図しか持っていないF爺は、この日まで思い込んでいました。
ところが・・・駅前のバス停の傍(そば)で、いかにもすぐ近くで食料品を大量に買い込んだばかりという様子の歩行者とすれ違いました。中年の女の二人連れです。
《あ、これは・・・近くに、古い地図には載っていないスーパー・マーケット(*)がありそうだな。今度来る時までに、牟岐の遍路道沿いの食料品店を調べて書き足しておこう》
(*) 帰仏後にウェブ検索してみると、牟岐駅のすぐ近くに三軒もスーパー・マーケットが出来ているようです。2017年か、もしかするともっと前に、開店していたのかもしれません。探そうと思っていない物は、すぐ傍(そば)を通っても、なかなか目に入らないものなのです。
遍路小屋
牟岐駅前を過ぎて、300mほど進んだ所の遍路休憩所で一休みします。2016年にNMさんと一緒に歩いて来てこの遍路小屋で遭遇した女のことを思い出しました。何度も遍路道を歩くと、思い出が重層的に溜まって行きます。
《早目の弁当にしようかな》
と一瞬だけ思ったのですが、やめました。あの時の「食欲をそそらないバナナ」の動画像記憶が出現してしまい、到底ここで弁当を広げる気になれなかったのです。
もう少し先まで行った所で道路の左側に日陰で坐れる場所があったので、そこで弁当にしました。
海部
海部(かいふ)を通ったのは、午後3時を少し廻った頃でした。海部駅前の信号のある道を渡った直後、町はずれになる当たりで、2016年に「民宿海部」に泊まった時のことと2017年に「生本旅館」に泊まった時のことが同時に動画像記憶で出て来て、面喰(めんくら)いました。
二本の映画を並行して見ているような感じ・・・ではないのです。両方で自分が主役の一人ですから、強烈な、不思議な臨場感がありました。
《今年は、足に肉刺(まめ)が出来ていないから速く歩けて、こんな時間に海部に来ている。どっちも良い宿だったから、泊まらないで通り過ぎるのは未練があるなあ・・・》
そう思いながら足を進めます。那佐湾が見えてきた辺りで、二重の動画像記憶は、ふっと消えました。
宍喰
午後5時近く、宍喰が見えて来ました。
〈「道の駅宍喰温泉」の角(かど)で国道を右に逸(そ)れて街並みに入る〉
つもりでいたのですが、曲がるべき場所を見落としたようで、気が付くと国道55号線をかなり先へ進んでしまっていました。遍路地図を引っ張り出します。
《ええっと・・・あ、この辺りまで来てしまっている。このまま宍喰川に架かるあの大きな橋を渡ってから右へ下りて行ったほうが早いな》
その後は、さらに道を間違えてしまうことは無く、「民宿ぬしま」が見つかりました。
「民宿ぬしま」
入り口が大きく開(あ)いています。玄関に入ると、ご主人らしい人が椅子に腰掛けて新聞を読んでいました。
「こんにちは。電話で予約したFです」
ご主人は、にこやかに
「ああ」
とだけ言って、立ち上がりました。奥の方にいる女将さんを呼びに行ったようです。
愛想の良い女将さんがすぐ出て来ました。ご夫婦ともかなりの年配のようですが、トイレの場所、二階の寝室への案内など、てきぱきと事を運びます。
廊下を赤い蟹が這っているのが目に付きました。
「おや、蟹ですね」
「海辺ですからね。勝手に入って来るんです」
「蟹は、蚊と違って、煩わしいことはありませんね」
なぜか、風呂場の場所の説明がありません。
「お風呂はどこでしょうか」
「ご案内しますよ」
この時、事情を知らないF爺は、
〈風呂の準備が出来たら声を掛ける。その時に案内する〉
という意味だと思ってしまいました。
広い寝室に落ち着き、蒲団(ふとん)の準備を済ませて、ちょっと横になります。壁に貼ってあるたくさんの写真を見ると、高校生の団体が合宿などによく利用する宿のようです。
すうっと眠り込みそうになって慌てました。時計を見ると、到着してから20分も経っています。
《風呂の準備に20分も掛かるはずは無い。さっきは、何か聞き違えたのかな》
階下に下りて見ます。そこで判明したのですが・・・この宿の風呂場は、通りを隔てた建物にあるのです。
「ご案内しますよ」
は、
〈風呂のある建物まで道案内をする〉
という意味だったのです。
浴衣を貸してもらい、タオルを持って、女将さんの後に蹤(つ)いて行きます。
「今日のお客さんはお一人だけですから、左奥の風呂場に行ってください」
建物に入ると、広い脱衣場がありました。右側の大浴場の戸が開いています。湯水の匂いはしません。ちょっと覘(のぞ)いてみると、15人ぐらいも同時に入れそうな広さでした。
《左の奥って、こっちのことかな・・・》
それらしい方向に進んでみると、ああ、あった、あった。一人用の広さの風呂場です。今日一日の汗を流して好い気分になりました。
夕食
夕食は、見た目も分量も栄養価も味も、とても良心的なものでした。
大蒜(にんにく)をたっぷり載せた鰹(かつお)の叩き
鯖(さば)の塩焼き
海老(えび)の天麩羅(てんぷら)
鶏の唐揚げ
皿三枚に分けた野菜と
ご飯とお吸い物に漬物
《これで二食付5500円は、安い!》
手持ちの醤油を使って、美味しく戴きました。甘ったるい味付けの物は一品も無く、国際的に正常な味覚(*)に適(かな)うものばかりで、大満足です。ビールも二本。
(*) 当ブログに初めてのご訪問で「国際的に正常な味覚」が何のことか見当の付かない方は、ブログ記事「味覚障碍?」に目をお通しください。
就寝、8時30分。明日の朝食は6時にお願いしました。