「でっち上げる」の「でっち」って何?

擬似形態素(*)は、当初の予測よりも遥かに数が多いと分って来ました。

(*)「擬似形態素」の現段階での定義は、こうです。
【一つだけかごく少数の成句または複合語の構成要素を成すが、それ自体には意味の無い音列・文字列】

今月中には一覧表を掲載しますが、その後も、いくつも見つかるかもしれません。

「でっち上げる」の「でっち-」

「でっち上げる」の「でっち-」って何でしょう。

「丁稚奉公(でっちぼうこう)」の「丁稚」とは、無関係です。

古語辞典を引いてみたら、もう一つ「でっち」と発音する語が見つかりました。
漢字で「重一」または「調一」と書いて
「双六(すごろく)で賽(さい)の目が二個とも一が出ること」
という意味だそうです。

出典は、『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』という全二十巻の説話集の第十二巻「博打(ばくち)」の巻だそうです。橘成季(たちばなのなりすえ)の撰で、成立は建長六年(1254)とあります。

脱線

博打打(ばくちうち)が特殊な語を使うのは、あちこちの文化圏で観察できることです。

例えば、トルコ語の普通の数詞は
1= bir、2= iki、3= üç、4= dört、5= beş、6= altı・・・ですが、バックギャモンで
賽の目が二個とも一だとhepyek、
二個とも二だと dubara、
二個とも三だと düse
二個とも四だとdörtciharまたはdörtçar
二個とも五だとdübeş
二個とも六だとdüşeş
と言います。

どこかの国に賭け麻雀やら賭けトランプやらの愛好家がいるように、トルコにも賭けバックギャモンの愛好家がいます。

こんな話をすると、
《ほほう、F爺さんは、トルコじゃ博打打とも付き合いが深かったのか・・・》
とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんね。

脱線の脱線

どこの国でも地域でも、博打と売春は密接に繋がっています。

トルコ語に「hanımefendı (ハヌム・エフェンディ)」という言葉があります。庶民は崩して「hanıfındi (ハヌフンディ)」と発音します。「既婚夫人に対する最上級の敬称」ですから、「奥様」よりも「奥方様」に近い語感です。

この言葉を、置屋では、遣り手婆(*)が籠の鳥(**)を呼ぶのに用います。

(*)(**) 日本語習得途上の読者のための注: 「遣り手婆」は「やりてばばあ」と読みます。女郎屋で遊女を取り仕切る女のことです。老女だとは限りません。「籠の鳥」は、「自由を束縛されている」ことから遊女を指します。

これを聞いて
《そうか、F爺めは、何しにトルコに行くと思っていたら、売春窟に入り浸っていたんだな。育ちの悪い奴だ》
とお思いになるのは、非常に育ちの悪い方でございますよ。

結論

「でっち上げる」の「でっち-」も、間違い無く、擬似形態素です。