「干す」と「乾かす」はどう違う? (4) 最新定義案

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〈「干す」と「乾かす」はどう違う?〉と
〈「干す」と「乾かす」はどう違う? (続)〉と
〈「干す」と「乾かす」はどう違う? (3)〉
で、同じ主題に関して三回、アンケートのお願いをしました。

質問は、合わせて6問になりました。

　　　質問[1]　「干す」と「乾かす」の意味と用法は、どう違うのでしょうか。

　　　質問[2]　「ペットボトルの水を飲み干す」「盃(さかづき)を干す」などと言いますが、
　　　この場合、空(から)になった容器に水滴や唾液の付いていることがあります。これは
　　　「派生した語義」という説明で良いのでしょうか。

　　　質問[3]　【ペンキや絵の具等、塗料を塗ったばかりの長椅子、画板、画布等については、
　　　たとえ自然の作用を利用していたとしても、「干す」とは言わず、「乾かす」と言います】が・・・
　　　なぜでしょうか。

　　　質問[4]　「乾かす」の定義のうちに、水分・湿気だけでなく、
　　　「揮発性の物質が抜けて行くのを待つ」ということも併記するべきでしょうか。

　　　質問[5]　ヘメレベさんとAQさんからご指摘のあったことですが、
　　　「干す」の定義のうちに
　　　【乾燥させるに当たって切り離すまたは取り外す、(衣類や帽子などであれば)脱ぐ】
　　　という条件を付け加えるべきでしょうか。

　　　質問[6]　「干す」の定義のうちに
　　　【後で利用することを意図している】
　　　という条件を加えるべきでしょうか。

多数のご回答

コメントでご回答くださった「106」さん、星三郎さん、Y.M.さん、「みやゆふ」さん、ヘメレベさん、AQさん、
メールなどでご意見をお知らせくださった皆様、
誠にありがとうございます。

お一人で二通、三通・・・と、修正した新しいご回答をお寄せくださった方も多数いらっしゃいます。

今回は、特例として、ご回答を詳細に分析する「アンケートの纏め」の代わりに、F爺の定義案の変遷を記録することにします。最新定義案が成立したのは、皆様との交信の成果です。

最新定義案が万人に満足してもらえるものになっていれば素晴らしいのですが、さて・・・。

F爺の定義案の変遷

　最初の定義案

F爺の、何十年か前の、最初の定義案は、こうでした。
「干す」=「日光や風の作用を期待して、一定の場所に放置して乾燥させる」
「乾かす」=「熱源の上にかざしたり、ドライヤーを使ったり、風の吹いている所で振り廻したりして乾燥させる」

但し、「盃を干す」や「(有能な)人を干す」は、派生した別の語義。

　反省

さまざまな時期に、これでは不十分だったと気付いた点がいくつもあります。

[1]「室干(へやぼ)し」というものがある。直射日光も風も当たらないが「室内のほうが外よりも温かい」または「室内のほうが外よりも湿気が少ない」場合に有意義。

[2] 魚の「一夜干し」「生干し」の場合、ある程度は水分を抜くが、「乾燥させる」までは行かない。

[3] 衣類などを干す時には、最低限「広げる」「吊るす」「掛ける」などして乾きやすいようにするのが普通。また、敷布(しきふ)(*)などは、「生乾きになった時に裏返す」という手順を踏むことがある。放置する(= ほったらかしにする)わけではない。

(*)「敷布」をカタカナ俗語では「シーツ」と言います。厳密には別のことです。欧米社会の「シーツ」は、複数形です。二枚で一組なのです。上下二枚の布の間に潜り込んで寝るようになっています。日本の布団で使う「敷布」は、一枚だけです。文字通り、「敷く布」です。

[4] 洗濯し終えた衣類を物干し竿や衣紋掛けに広げて然るべき場所に置いてしまえば、まだまだ濡れていても「干して来た」「干してある」などと言える。行為に重点がある。「乾かす」は、結果が大事。生乾きの場合、「乾かした」ことにはならない。

[5]〈「干す」と言う場合〉だけに気を取られていて、
〈乾燥させるけれども「干す」とは言わない場合〉
に十分に目が行かなかった。

墨汁、絵具、漆喰、ペンキ、接着剤などは、
製造した時点で水分や油、揮発性の溶剤などを含んでいる。
そして、使用せずに空気に触れる所に放置しておいたら、乾いてしまって使い物にならなくなる。

しかし、有効な使い方をした後で空気に触れさせておくと、やがて望み通りの乾燥度になる。この場合は「干す」とは言わず、「乾かす」と言う。

[6]
[6a] 生えている髪や髭(ひげ)については、「自然の作用のみに任せておく」場合でも「干す」とは言わない。「乾かす」と言う。ところが、鬘(かつら)を作るために切り取って洗った髪については「干す」と言う。

[6b] 濡れた衣服を脱がずに「自然に乾燥する」のを待つことを「干す」とは言わない。「(着たままで)乾かす」と言う。脱いだ衣服であれば、洗わずに絞って広げて吊るすなどしただけでも「干す」と言う。

[7]「暖房のある室内で乾燥させる」場合、「室干(へやぼ)し」と言う。ところが、暖房は「自然の作用」ではない。但し、「衣類などを乾燥させるためにわざわざ暖房を入れた場合」は「乾かす」と言う。

最新の定義案

「干す」と「乾かす」の最新の定義案は、こうです。

「干す」
=【既存の条件を変えずに(*)最適の場所を択び、「広げる」「吊るす」「掛ける」「裏返す」「日照や風向きが変わった時に移動させる」などの動作で最適の状態を保ちながら、期待する乾燥度になるまで静置する(**)】

(*)「すでに暖房の入っている室内で乾燥させる」のは「室干し」。「速やかに乾燥させるためにわざわざ暖房を入れる」のであれば「乾かす」と言う。

(**) 一定の場所に静置した時点で「干した」「干して来た」「干してある」と言える。期待した乾燥度に到らなくても「干さなかった」ことにはならない。「干したけれども十分に乾かなかった」と言う。行為を表現する動詞。

「乾かす」
=【既存の条件を変えるための行動(*)をして、速やかに乾燥させる(**)】

(*)「既存の条件を変えるための行動」
=「団扇(うちわ)や扇風機を使う」
「熱風を当てる」
「高温になっているスチームなどに直(じか)に載せる」
「予(あらかじ)めアラビア・ゴムや揮発性の溶剤などを仕込んでおいて、空気に触れたら短時間で液体成分が抜けるようにしておく」
など。

(**) 期待した乾燥度に到らなければ「乾かした」とは言わない。「乾かそうとしたけれども」といった表現をすることになる。結果に重要性がある。

派生語義

次の語義は、誇張や比喩によって原義から派生したもので、上記の定義案の範囲からは逸脱していると考えます。

[1]「(コップや瓶、缶などに入っている液体を)飲み干す」「(盃(さかづき)を)干す」

[2](仕事や役割を与えないという意味で)「(特定の人物を)干す」

お願い

F爺の最新の定義案にご感想をお寄せください。まだ不十分な点があるでしょうか。改良案がありましたら、是非お知らせください。