フランスの匿名出産制度

今日は、・・・今日も、記事を二本、掲載します。「年内に発表しておきたい題材」がたくさんあるため、ついつい、こうなってしまいます。

熊本市の慈恵病院が「内密出産」を開始

浦島爺が日本語圏のニュースに目を通していて、「内密出産」という文字列に気付きました。
《誰に対して何を「内密」にすることなんだろう》

朝日新聞デジタルのその記事を読んでみました。「有料会員記事」だとのことで途中までしか読めませんが、「内密出産」という言葉の意味だけは解りました。「妊婦が身分を隠して出産すること」と「身分を隠した妊婦の出産に産婦人科医が立ち会うこと」の両方を指すようです。

この文字列でウェブ検索してみると、熊本市の慈恵病院とそこの副院長の蓮田健医師の写真がたくさん出て来ました。
《どこの病院でも受け付けていることではないからニュースになったんだろうな》

〈事情あって公然と出産するわけに行かない人の窮状を救うため〉
の仁術なのだろうと思いますが、次の数行を読んで、フランスの「匿名出産」制度の被害者のことが脳裡に浮かびました。

朝日新聞デジタルの記事を引用します。なお、太字は、F爺が勝手に施しました。

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蓮田健・副院長によると、まず匿名での出産を希望する妊婦から相談を受け付ける。病院側の説得でも妊婦が身元を明かさない場合は、何年後なら身元を明かしてよいかなどを取り決める。妊婦は病院内にある「新生児相談室」の室長だけに身元を明かし、仮名のまま妊婦健診を受けたり、出産したりできる。費用は病院が負担する。

病院側は免許証などの身分証明書をコピーして保管。子どもが一定の年齢に達して親の名前を知りたい場合は、病院が保管していた身分証明書[のコピー]を開示するという。ただ、妊婦が「一生匿名」を希望した場合には出自を知る機会が失われる「匿名出産」になることもあり得るという。
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フランスの匿名出産制度

フランスには、「匿名出産制度」というものがあります。フランス語の読める方は、「accouchement sous X」でウェブ検索すると、制度そのものの説明も、被害者の訴えも多数見つかります。

一言で言えば、妊婦が合法的に産婦人科医の立会いの下で匿名で出産できる制度です。そうして生まれて来た子供には、母親が完全匿名だった場合、自分の生物学上の母親がどこの誰であるかを知る権利はありません。当然、父親も不明です。

匿名出産で生まれた子の歎き

匿名出産で生まれた子は、養親に育てられます。ある年齢に達すると、
〈自分は、生物学上の母親にも父親にも望まれずに生まれて来た〉
と認識します。そして、自分の出自を知る手立てさえも無いことを知って・・・それから一生、悩み、悲しみ、恨み、苦しみ続けるのです。

近年、度々、そうした境遇の人が「この制度は、国家による人権侵害だ」と主張して法改正を訴えていますが、実っていません。

匿名出産は男に不公平

匿名出産制度の下(もと)では【妊婦が子供を合法的に捨てて何らの責任も負わない】ことが出来ます。

一方、子供の生物学上の父親には、〈生まれた子に関して合法的に無責任でいる権利〉は、ありません。

このことの不公平も批判されています。

人工授精で生まれた子の苦悩

人工授精で生まれた子が大人になって、同様の「出自探し」を試みて・・・フランスの現行法の下(もと)では不可能だと知って苦悩する事態も、同様に、社会問題になっています。

法改正が早急に実現する見込みは無い

フランスで「自分の出自を知る権利」を認めるべく法改正が早急に実現する見込みは、今のところ、ありません。

日本の法律は?

「内密出産」に関する日本の法律のことをF爺は存じませんが、さまざまな疑問が湧きます。

匿名出産を受け付けることで「妊婦の窮状を救う」ことは、
【生まれて来る子を窮状に突き落とすことになる】だけでなく、
【自分の子を育てたい父親の意思を蔑ろにすることでもある】
【孫を自分の手で育てたい祖父母の意思を蔑ろにすることでもある】
ことなどを、熊本市の慈恵病院では、よくよく考えているのでしょうか。

八方丸く収まるわけの無い、難しい問題です。