遍路道の迷いやすい分岐点(17)

36番・青龍寺から須崎へ

36番・青龍寺の後、須崎へ向かう道には、遍路地図を見ながら歩けば、物理的に迷いやすい箇所はありません。しかし、どちらの道を行くべきか、心理的に迷う分岐が二つあります。

「横浪スカイライン」か浦ノ内湾沿いの道か

順打ちで36番・青龍寺に詣でたお遍路さんは、直後、「横浪スカイライン」を歩くか、少し打ち戻り、宇佐大橋を渡り直して浦ノ内湾沿いの道を辿るかを択びます。

スカイラインからの絶景を楽しむのも好し、湾沿いの道の民家などの佇まいを愛でるも好し、そこは、好み次第でしょう。F爺は、両方の道を歩きました。どちらの道も、通って満足でした。それぞれに味わいがあります。

巡航船に乗るか否か

湾沿いの道を択んだ場合、歩きに徹する人と、巡航船に乗る人がいます。

F爺は、初めのうちは、歩きに徹するのが当然だと思い、実行していました。ある年、当時はお遍路さんにも泊まれる料金設定の宿だった「国民宿舎土佐」の支配人・池上孝二さんからこんなことを聞きました。
【真念さんも、この行程は、舟に乗った】

F爺は、子供の頃から、舟に乗るのが大好きです。それならば乗ってみようと決めて、翌日、船着き場を探し当てて巡航船に乗りました。

乗ってみると、巡航船は、湾のあっちの岸に着けたりこっちの岸に着けたりしながら進み、最終的には乗り込んだのと同じ側の岸に着けました。

その時には、
【室戸岬の北東側の海岸の伏越ノ鼻と淀ヶ磯の間の「ごろごろ浜」は、昔は道が無く、お遍路さんは舟に乗るものだった】
ということを聞いていたため、
《真念さんの時代には、ここもそうだったのかな》
と思い、それ以上は深く考えませんでした。

翌年も、翌々年も、巡航船に乗りました。そして、
《おかしい》
と思い始めました。

【歩ける道の無い行程を舟に乗る】
のは当然なのですが、
【今や立派な道が二本も出来ているのに、それでも巡航船に乗るのは、誤魔化しではないのか】
という疑問が出て来たのです。

コロナ禍で一時帰国の叶わない時期が四年近くも続いた間に、心の深い所で《誤魔化しか否か》という命題が熟したようです。

今のF爺には、結論が出ています。今度F爺が四国遍路をする時には、浦ノ内湾の巡航船には乗りません。

でも、他のお遍路さんに「巡航船に乗るな」と言おうとは思いません。どんな歩き方をするか、どんな船を「許容範囲」とするかは、お遍路さんの一人一人が考えて決めることですから。