アイウエオ
- 2015/04/25
- 18:58
火狐さん
日本語関連の記事への質問続出でいろいろ道草を食いましたが、ようやく「音素の話」シリーズに戻って来ました。近々に「日本語の変化速度」シリーズも再開することにします。
今日は、日本語の母音音素のまとめです。現代の日本標準語では、母音音素は/ア/、/イ/、/ウ/、/エ/、/オ/の五つです。これは、日本語を話し読み書きする老若(ろうにゃく)男女(なんにょ)の直観的な日本語観と一致しますね。
音価としては、日本語の母音の種類は、もっとたくさんあります。
「ク」「ム」「ル」「プ」などの母音の/ウ/が奥舌母音(*)であるのに対して「ス」「ズ」「ツ」を発音する時の/ウ/は中舌母音(**)ですから物理的には異なります。でも、日本語の枠の中ではどちらも同じ/ウ/として機能しますから「同一の音素の異音」です。特に聴き分ける訓練をした人でないと「どこがどう違うのか分からない」のが普通です。
(*)「奥舌母音」: 舌の奥の部分を軟口蓋に近づけて発音する母音。
(**)「中舌母音」: 舌の中ほどを硬口蓋に近づけて発音する母音。
トルコ語では円唇のウ/u/と平唇のウ/ɯ/は、別の音素です。前者は「u」と、後者は(「i」に似ていますが点の付かない)独特の「ı」という文字で書きます(*)。
(*) トルコ語の「ı」の大文字は「I」です。点の付いた「i」の大文字は、「İ」です。
トルコ語で円唇のウ/u/で「kuzum」と言えば「私の仔羊」という意味ですが、平唇のウ/ɯ/で「kızım」(*)と言ったら「私の娘」という意味です。
(*) これは、強さアクセントを語末に置いた場合です。語頭に置くと「私は女の子よ」または「私は未婚の女です」という意味になります。
円唇のウ/u/で「kurmak」なら「組み立てること、準備すること」といった意味ですが、平唇のウ/ɯ/で「kırmak」と言えば「壊すこと」ですから、大違いです。
日本語では、「ウ」を発音する時に唇を円(まる)めても円めなくても語の意味は変わりません。標準発音は、平唇のウです。
この他、細かく言うと「ア」にも「オ」にも「エ」にもさまざまな変種があります。
例えば「前舌のア」と「奥舌のア」を区別する言語を母言語としている人に「どっちなのか」と訊かれて・・・日本人の日本語教師には一体何を訊かれたのかさえも分からなくて途方に暮れる、ということがよくあります。
フランス標準語では「前舌のア」と「奥舌のア」を区別します。「動物の足」を意味する「patte」は、「前舌のア」で発音しますが、「パン生地、パスタ、麺類、練り物」などを意味する「pâte」は「奥舌のア」です。
「円唇のオ」と「平唇のオ」を区別する言語もあります。
F爺は、日本を離れて一年以上経ってから、「円唇のオ」と「平唇のオ」を区別する言語を話す人と遭遇した時に初めて、「自分が発音している日本語のオは、円唇とは限らない」ことを自覚しました。それから数週間かけて他の日本人の発音を仔細に観察して、それが自分だけの特別な発音ではないことを知りました。
あれから何十年も経ちますが、今でも日本語関連の書籍には、「日本語のオは、円唇母音だ」という記述しか見当たりません。どうしてこんなことになっているのでしょうか。
日本語関連の記事への質問続出でいろいろ道草を食いましたが、ようやく「音素の話」シリーズに戻って来ました。近々に「日本語の変化速度」シリーズも再開することにします。
今日は、日本語の母音音素のまとめです。現代の日本標準語では、母音音素は/ア/、/イ/、/ウ/、/エ/、/オ/の五つです。これは、日本語を話し読み書きする老若(ろうにゃく)男女(なんにょ)の直観的な日本語観と一致しますね。
音価としては、日本語の母音の種類は、もっとたくさんあります。
「ク」「ム」「ル」「プ」などの母音の/ウ/が奥舌母音(*)であるのに対して「ス」「ズ」「ツ」を発音する時の/ウ/は中舌母音(**)ですから物理的には異なります。でも、日本語の枠の中ではどちらも同じ/ウ/として機能しますから「同一の音素の異音」です。特に聴き分ける訓練をした人でないと「どこがどう違うのか分からない」のが普通です。
(*)「奥舌母音」: 舌の奥の部分を軟口蓋に近づけて発音する母音。
(**)「中舌母音」: 舌の中ほどを硬口蓋に近づけて発音する母音。
トルコ語では円唇のウ/u/と平唇のウ/ɯ/は、別の音素です。前者は「u」と、後者は(「i」に似ていますが点の付かない)独特の「ı」という文字で書きます(*)。
(*) トルコ語の「ı」の大文字は「I」です。点の付いた「i」の大文字は、「İ」です。
トルコ語で円唇のウ/u/で「kuzum」と言えば「私の仔羊」という意味ですが、平唇のウ/ɯ/で「kızım」(*)と言ったら「私の娘」という意味です。
(*) これは、強さアクセントを語末に置いた場合です。語頭に置くと「私は女の子よ」または「私は未婚の女です」という意味になります。
円唇のウ/u/で「kurmak」なら「組み立てること、準備すること」といった意味ですが、平唇のウ/ɯ/で「kırmak」と言えば「壊すこと」ですから、大違いです。
日本語では、「ウ」を発音する時に唇を円(まる)めても円めなくても語の意味は変わりません。標準発音は、平唇のウです。
この他、細かく言うと「ア」にも「オ」にも「エ」にもさまざまな変種があります。
例えば「前舌のア」と「奥舌のア」を区別する言語を母言語としている人に「どっちなのか」と訊かれて・・・日本人の日本語教師には一体何を訊かれたのかさえも分からなくて途方に暮れる、ということがよくあります。
フランス標準語では「前舌のア」と「奥舌のア」を区別します。「動物の足」を意味する「patte」は、「前舌のア」で発音しますが、「パン生地、パスタ、麺類、練り物」などを意味する「pâte」は「奥舌のア」です。
「円唇のオ」と「平唇のオ」を区別する言語もあります。
F爺は、日本を離れて一年以上経ってから、「円唇のオ」と「平唇のオ」を区別する言語を話す人と遭遇した時に初めて、「自分が発音している日本語のオは、円唇とは限らない」ことを自覚しました。それから数週間かけて他の日本人の発音を仔細に観察して、それが自分だけの特別な発音ではないことを知りました。
あれから何十年も経ちますが、今でも日本語関連の書籍には、「日本語のオは、円唇母音だ」という記述しか見当たりません。どうしてこんなことになっているのでしょうか。