異次元の宵・「はじめまして」の巻
- 2015/11/04
- 20:47
2015年9月某日。子供の頃から親しくしているB氏と秋田市の東通り地区にあるカウンター席禁煙の居酒屋「金茶」で食事することにしました。
当日、車で迎えに来てくれたB氏が車中で「この店を教えてくれたM夫妻も招待した」と告げました。M夫妻はB氏のかつての同僚だったと聞いています。
〈Bさんが紹介してくれるんだから立派な人達だろう〉
と考えて、F爺は警戒しませんでした。
途中、思いがけず交通渋滞に引っかかりました。B氏が「金茶」に電話します。
「Bです。近くまで来てるんですが、渋滞してしまっていて、約束の時間に少し遅れます」
「・・・・・・・」
「あ、そうですか。じゃ、待つように言っておいてください」
M夫妻はもう「金茶」に到着しているのだそうです。
四、五分後、我々も到着しました。
玄関を入ってすぐ右手のカウンター席に坐っていた年配の見知らぬご夫婦がB氏とF爺に笑顔を見せました。他の客はいませんでしたから、M夫妻に違いありません。お二人が、揃って、こう言いました。
「はじめまして」
「はじめまして」
日本人の口からは過去25年間ほどで10回ぐらいしか聞いたことの無い稀で不自然な挨拶です(*)。特に秋田県では、それまで一度も聞いたことが無かったのです。たくさんあるごく普通の自然な挨拶のうちのどれか一つを期待していたF爺は度肝を抜かれました。
(*) ブログ記事「はじめまして」をご覧ください。
強烈な違和感を覚えたことは努めて表に出さず、挨拶を返します。
「Fと申します。宜しくお願いします」
そしたら・・・M夫人がもう一度、同じ笑顔で、こう言いました。
「はじめまして」
この挨拶を同一人物に同じ場面で二度続けて言われたのは、生まれて初めての経験です。初対面の挨拶は一度しかしてはいけないことを、この人は知らないのでしょうか。厚化粧だったこともあって、笑顔が「仮面の微笑」に見え始めます。本心を隠すために浮かべている上辺だけのこわばった微笑・・・。
そして、二人共、「はじめまして」の他には何も言わなかったのです。
〈この人たち、他に言うことは無いのか !? せめて自分の名前を言うとか「遠路、お疲れ様です」とか ?〉
前回までに入(はい)り慣れていた個室の方へ行こうとして、店主に呼び止められました。
「そっちの室(へや)は、四人じゃ窮屈ですよ。もっと広い室を用意しましたから、あちらへどうぞ」
「ああ、なるほど。そりゃ、そうですね」
というわけで、案内に従って、奥の広い個室のほうへぞろぞろ進みました。
個室に入ると、M夫人が、初対面ではないどころか何十年も同じ職場にいたB氏に向かって畳に三つ指を突いて(仮面の微笑のまま)
「はじめまして」
と二度も繰り返して挨拶しました。
〈拙(まず)い。これは、まともな人じゃない。それも、中途半端な狂い方じゃない・・・〉
B氏も呆気に取られています。気を呑まれたようで、同じ言葉を返しました。
「はじめまして・・・」
仮面夫人が、さらにF爺に向かって
「はじめまして・・・はじめまして・・・はじめまして」
M氏も繰り返します。
「はじめまして」
M夫妻は、B氏向けと合せて、なんと合計9回も同じ擬似挨拶を連発したのです。B氏が心ならずも発した1回も数に入れると、僅か二分ほどの間に、過去25年間に聞いたのと同じ回数だけ聞かされてしまいました。
「悪い予感」どころではありません。言葉の全く通じない相手です。この晩餐会、きっと決裂します。
次の篇に続きます。
当日、車で迎えに来てくれたB氏が車中で「この店を教えてくれたM夫妻も招待した」と告げました。M夫妻はB氏のかつての同僚だったと聞いています。
〈Bさんが紹介してくれるんだから立派な人達だろう〉
と考えて、F爺は警戒しませんでした。
途中、思いがけず交通渋滞に引っかかりました。B氏が「金茶」に電話します。
「Bです。近くまで来てるんですが、渋滞してしまっていて、約束の時間に少し遅れます」
「・・・・・・・」
「あ、そうですか。じゃ、待つように言っておいてください」
M夫妻はもう「金茶」に到着しているのだそうです。
四、五分後、我々も到着しました。
玄関を入ってすぐ右手のカウンター席に坐っていた年配の見知らぬご夫婦がB氏とF爺に笑顔を見せました。他の客はいませんでしたから、M夫妻に違いありません。お二人が、揃って、こう言いました。
「はじめまして」
「はじめまして」
日本人の口からは過去25年間ほどで10回ぐらいしか聞いたことの無い稀で不自然な挨拶です(*)。特に秋田県では、それまで一度も聞いたことが無かったのです。たくさんあるごく普通の自然な挨拶のうちのどれか一つを期待していたF爺は度肝を抜かれました。
(*) ブログ記事「はじめまして」をご覧ください。
強烈な違和感を覚えたことは努めて表に出さず、挨拶を返します。
「Fと申します。宜しくお願いします」
そしたら・・・M夫人がもう一度、同じ笑顔で、こう言いました。
「はじめまして」
この挨拶を同一人物に同じ場面で二度続けて言われたのは、生まれて初めての経験です。初対面の挨拶は一度しかしてはいけないことを、この人は知らないのでしょうか。厚化粧だったこともあって、笑顔が「仮面の微笑」に見え始めます。本心を隠すために浮かべている上辺だけのこわばった微笑・・・。
そして、二人共、「はじめまして」の他には何も言わなかったのです。
〈この人たち、他に言うことは無いのか !? せめて自分の名前を言うとか「遠路、お疲れ様です」とか ?〉
前回までに入(はい)り慣れていた個室の方へ行こうとして、店主に呼び止められました。
「そっちの室(へや)は、四人じゃ窮屈ですよ。もっと広い室を用意しましたから、あちらへどうぞ」
「ああ、なるほど。そりゃ、そうですね」
というわけで、案内に従って、奥の広い個室のほうへぞろぞろ進みました。
個室に入ると、M夫人が、初対面ではないどころか何十年も同じ職場にいたB氏に向かって畳に三つ指を突いて(仮面の微笑のまま)
「はじめまして」
と二度も繰り返して挨拶しました。
〈拙(まず)い。これは、まともな人じゃない。それも、中途半端な狂い方じゃない・・・〉
B氏も呆気に取られています。気を呑まれたようで、同じ言葉を返しました。
「はじめまして・・・」
仮面夫人が、さらにF爺に向かって
「はじめまして・・・はじめまして・・・はじめまして」
M氏も繰り返します。
「はじめまして」
M夫妻は、B氏向けと合せて、なんと合計9回も同じ擬似挨拶を連発したのです。B氏が心ならずも発した1回も数に入れると、僅か二分ほどの間に、過去25年間に聞いたのと同じ回数だけ聞かされてしまいました。
「悪い予感」どころではありません。言葉の全く通じない相手です。この晩餐会、きっと決裂します。
次の篇に続きます。